きりんの散歩

趣味は美術館めぐり。生息地は福岡。遠くまで行くこともあります。アイコンは我が家のモネちゃん。twitter:@kirin11_04

さらけだすZINEピクニックvol.3

2022.11.12

福岡市中央区にある舞鶴公園鴻臚館広場

さらけだすZINEピクニックvol.3

 

通称「ZINEピク」に私が参加することになった経緯と経過、感想を書く。

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○声掛け

2022.8.7茶のむところに行った。これはみさこさんのTwitterを見たからだ。みさこさんのつぶやきはデザインと素敵な趣味とジェンダーなどの社会的話題で構成されてて好みが合う。おすすめされたら行こうと思うのだ。そんなおすすめ先の中村さんと初めて会ったとき、話しやすくて芯が入っていてサッパリした話し方をしているなと思った。大体のひとは私と話しているとお悩み相談会になってしまう。聞き出したがりな私の性質に大体のひとはさらけだしてくれる。そうならないひとは悩んでても自分なりの着地が取れる人が多い気がする。なんだかいろんなお話しをした。福祉の話、美術館巡りの話、作品がいつまで作品でいれるのか、私は私でいつまでいれるのか…「きどさんはインプットをたくさんされているから、アウトプットしてみませんか?」とZINEピクに誘われた。前のZINEピクをツイートで見ていた。これもみさこさんのTwitter。この方が主催だったのか。声をかけられた人しか参加できない、さらけだすZINEピクニック。それはいつも誰かを誘い出すことが多い私にとっても魅力的な誘惑だった。

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○用意

なにをなにから手につけて良いのやら?ココロ惹かれてZINEを出すと即決したし、中身は文にしようとしか思わなかった。絵は描けないし、詩や短歌は作ってないわけではないけどTwitterで放流させるほうがのびのびとしている。さてと、極々簡単にアロマンティクでアセクシャルを書き出す。この筆をどうやって着地させたらいいのかもわからない。それでもとりあえず書けてしまった。一旦、中村さんに読んでもらう。きどさんの文は硬いです。そーーーれはそう、そうなんです。いいんです…これから柔らかくはできません。私は母に砂利道を裸足で歩くような性格だと言われたことがあるくらいには頑固で、これだ!と走り出してしまったら痛くてもバカみたいに真っ直ぐに進んでしまう。文が硬いのはよく言われる。簡素にカルテ開示されてもいいように書いてたら削ぎ落とされて隙がなくなってしまった。このまま硬い自分でいるしかない。ナルミさん家にあるあれやらこれやら参考になるZINEとセブチやらを見せてもらう。なんだか硬いままに相手にも着地させる文体が浮かんできた。ナルミさんはおすすめしつつ、導き上手だった。

参加者で集まる週一回のzoom会議。分からないことを聞ける。めちゃくちゃありがたい。それにみんながZINE以外の悩みについて話したり、noe risaさんやあべきりさんの生活音とか、中村さん家の猫の鳴き声とか。こっちは一人暮らしで1人で無音だけど、誰かの家で友だちたちと放課後ダラダラと過ごしてる気分になれる。定期的に人と集まる、これは期間限定のこと。だけどホッと安心する場にすぐになっていた。

中盤は書いても書いても、さらけだすが掴めなかった。中村さんから「きどさんはアロマンティク、アセクシャルというだけでさらけだしてるんですよ。あとはそれを空間に物体にしていくだけです」みたいなこと言われた。ぐはぁ…そうだ、アートとは福祉とは生きるとは、思考や心を空間に再現する作業だ。そう気付かされて『いきものとしてのトレッドミルな幻想』を作っていた。アロマンティクでアセクシャルな私の半生。自分と環境のズレに対してコントロールが効かない感覚。これが理想と現実の狭間こと、悩みのタネだ。何度も見てきた、何度も体感した。こいつをどうにか掴んでみる、よくわからないままに飼い慣らす。それにはいくつも実験が必要だった。

半生を振り返るとどうしてもキーパーソンがいた。むくむくしたけものさんだ。はじめて絵を買ったひと。そしてはじめて好きなひとが私を認知してくれた。パトロンというには貧相で、何も出来てないんだけど大切なひとだった。そんなひとのペンネームを至る所に散りばめたかった。「面白そうなことしてるなと思いました。絵を描きます!」どひゃーー、やばいことになった。むくけもさんと無名のコラボ。なんだそれ楽しいに決まってる。無償提供された絵は絶対絶対に布教活動に使う。私はむくけもさんの伝道師なのだ。いつもそう自分の定めを小さなチャンスでもねじ込んで、こんなにいい絵を描く人がいるんです。とコツコツ積み上げてきた。しかしどうやって当日は飾り付けをしよう?せっかくむくけもさんに絵を描いてもらうならポスターにしたいし、うちのネコも見て欲しいし、でもピクニックだから野外だし。大体の設営は場の空間が持つ力に作品が飲み込まれる。エネルギーを発するものでなく、ただそこにあるだけのものになってしまったりする。どうしたらいいの?と友だちの画家に設営について訊いてみる。私の拙いアレやりたい!コレやりたい!を私の部屋にあるものを的確に指差しながらアドバイスをくれる。餅は餅屋、分からんは経験者へ。とてもイメージが出来た。当日の様子がありありと浮かんだ。ここにも導く天才だ、はやく作らないと。

それからvaloさんと紙を買いに行った。「これ可愛いですね。あ、名前も可愛い」紙の名前はカーニバル。確かにチラチラといろんな色が混ざってる。近くにある同じような印象の紙を何種類か買った。色がランダムなのも可愛いかもしれない。このときには製本で使う糸は決まっていた。それもまるでカーニバル。46メートルどこまでもグラデーション、チラチラと淡い色の取り合わせ。ぴったりな紙も私の手に捕まえた。

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○当日

「絵を飾っていいですか」

「シール売っていいですか」

当日になって中村さんにワガママを言ってしまった。きっといいよと言ってくれるだろうし、ダメならとても納得いく答えをくれそう。めちゃくちゃに甘えてた。そして快くOKをもらった。自分のZINEスペース近くの芝生、ポホヨラ洋菓子店のカヌレ看板の隣りに離小島が誕生した。まずはレジャーシートにむくむくしたけものさんの絵を3作品飾る。大学から好きで社会人になって初めて買った絵、初個展されたときにアトリエ三月に行って買った絵、このZINEピクで提供してくれて速攻で送ってくれた絵。加えてうちのネコのフォトアルバムを飾る。むくけもさんとネコ、どちらか見て欲しい。そしてどちらも見て欲しい。絶対絶対に布教するんだ。中村さんはいろんな人に来てほしいけど広報するのはなんだか苦手らしい。対象が自分自身だったら、きどきりんだけだったらしなかったと思う。だって自分からみる窓は小さくて声が届かない気がする。知名度もなければ、私の振り幅の狭さをお届けしてしまうのではないかと思っていた。でも、このZINEピクは実家のネコとむくけもさんとアロマンティクとアセクシャルの布教活動なのだ。それに私はオチのある話が好きだった。生粋の深夜ラジオリスナーで、ラジオ脳というのが日常でも住み着いている。そこから生み出されてしまった行く宛のないネコとむくけもさんで構成された漫談がいくつもある。絶対絶対絶対に布教する。それに誰かを笑わせたい。だから、今日は名前だけでも覚えて帰ってくださいね。

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あべきりさんが『いきもの〜』を読んでいた。あぁ、既婚者の方に見てもらうのはなんだか、どう思われるのかとても気になります。「私もきどさんからみてどう思われるのかなって思うよ」そうなんだ!あべきりさんの夫であるチャンさんが作ったZINEはサイコーだった。正確にはあべきりさん自身ではないけど…でも共同体としてテトテト歩くおチビちゃんたちも可愛いし、めちゃくちゃZINE作ってる母であり女性であり社会人でありひとりの個人であるあべきりさんは素敵だ。アロマンティクでアセクシャルで身体的接触に嫌悪感のある私とは、正反対ともいえる見知らぬ感覚の人とこうやって隣同士に生きていく。同じ価値観や場所を共有しながら過ごしていく。気になって気にして気にかけて、これが多様性ある暖かな地域なのかな。

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○来てくれた人

散歩友だち。甘くて炭酸がない冷たい飲み物を頼んだら、私のお腹にミスマッチして飲めないコーヒーとハズレのないキットカットを差し入れに買ってきた。キミに言ったと思うけど、私はコーヒー飲めません。大丈夫そうなカフェラテを飲む。ずっとえらい真剣にZINEをみていた。アロマンティク、アセクシャルなことは単語を使わずに言葉と態度で説明していた。この子には間引いてセレクトした言えるかもな範囲の半生しか言っていない。恋愛っぽいの遍歴をみられるのは嫌で、特にキミには1番どう伝えていいのかわからないから見せたくなかった。でもわからないのに友だちでいたい。ZINEピクだったら言える。あえて見せなかったことを見せてもいい気がした。異性の友だちへ、ぎこちなくて諦めてぼこぼこにやられてる私の恋愛っぽいを見せびらかすにはいい天気だった。

コレクター仲間。この人から変なところで声をかけられて、ひょんな弾みに知り合いになった。オーバーグラウンドの集まり今度も生島さん行くし…って生島さんも!気になっていた存在、生島さん。福岡にできたバカでかギャラリーで名前がついて回る人。さらけだすZINEピクニックにいるっ!?と思いつつ、もう15時くらいになっていた。顔を繋ぐためにコレクター仲間は来てくれたんだな。

ちーさんが来た。前にポエジオ時間で詩を作るに参加して仲良くなった短歌をつくる占い師さん。あのとき宣伝していたとはいえ来てくださるとは…めちゃくちゃ嬉しい。何かZINEを読んでもらえたのかな?きっと素敵な短歌を今日も歩きながらつぶやくのだろうか。

むくけもさんをまたじっとみる人がいる。「きどきりんさんですか?」ふぁっ???わたしは無名のココでデビューしたての新人なのに、私の名前をご存知ですの?むくけもさんコレクターだった。私が欲しかったむくけもさん初個展作品、げこるさんの久々個展作品を並べて飾っている羨ましいコレクター。私が欲しかった、私が欲しかったのにとまだ悔しいコレクター。まさか目の前で実像が現れるとは…。むくけもさんから原画とともに送ってくれた地方のお菓子をいっぱい渡す。Twitterでは相互だけど、リアルで会うなんて不思議。

新たな友だち。『あえてドングリを掘り起こす』はラジオのフリートーク集みたいなネタを書いた。「ラジオ聴きます。安住紳一郎の」もうサイコーです。まさか日曜天国ことニチテンリスナーが!!!!ということで意気投合したし、福岡に越してきたときに祖母から持たされて4年間封印したままのタジン鍋もフリマから持って帰ってもらえたし、ZINEも買ってくれたし、めちゃくちゃ嬉しい!ハッピーじゃん!わたし絶対にこのひとと友だちになる!

あとはネコのアルバムを見てくれた人に片っ端からモネちゃんを名付けたときと、生まれた4匹の子ネコの名付けたときからできた鉄板漫談を披露した。知らない人と話すのは好きだ。私は警戒心を与えないのだろう。実際にそんな仕事をしている。話しかけたひとが笑うのが好きだ。そして自分が嬉しくて笑うのが好きだ。

大体のギャラリーでは「誰かの知り合いですか?」と聞かれる。知り合いしか来ないみたいで閉鎖的な質問が嫌いだ。今回ZINEピクに来てくれた何人かに聞いてみたら大体がフォローしてるけど初めて会うと答える。あぁ場が開かれている。知らない私と、知らないあなた。ここで出会ってしまった。それがたまらなくキャラメルのように甘かった。

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○後日

valoさんから『いきもの〜』のレコメンドを個人的にいただいた。


点と点が線になっていく

きどさんが捉えた光、ことば

印象派の絵のようにきらめいている


外での活動が心地よい。光が集まって輝いていて、それに反射した私もキラキラと瞬く。「きどさんはなんか勝手にやっててよかったですよ。場を提供してよかったーーって。あとずっときどさんの明るい声が聞こえてました」中村さんにそう言われた。まだキャラメルの味がする。楽しかった。心から楽しかった。この感覚がどんどん自分のコントロール下にないものに対して敏感になってきていた。中村さんもそんなこと言っていた。さらけだすは勇気と、それを物質に宿す体力が必要だった。それでもお釣りが多い。まだ生きるのは楽しい。


意訳

また次もどこかでZINEピク開催を心待ちにしてます。

 

追伸 親友が期間限定通販で買ってくれた。ZINEピクを喜んでくれた。みんなそうだった。職場のひとも友だちもZINEピク参加者のみんなも。開催されたことに対しても、来場の方々に対しても、みんなみんな心に溜めている鬱屈としたものとかをさらけだして、それをみて喜んでいた。また延命しよう。